抜かない風潮は定着した

やむをえない抜歯と、抜かずにがんばるべき場合。その境界は、患者と歯科医の考え方によって、動きうる。最近は、 抜かない風潮が定着した。患者もがんばりたい。

頬が腫れたまま我慢しているうちに、口の中に、塩辛いような、すっぱいような味のものが出て、腫れは引き、とても楽になることがある。 ここまで虫歯が進行すると、歯髄の炎症は歯根の先端から骨に広がり、歯根膜にも化膿性の炎症 (歯根膜炎)を起こしている。口の中に出たへンな味は膿汗。根の周辺にたまったものが、歯根の先から出て、歯ぐきを貫いてうみのうよう口中に出て来たのだ。膿で腫れあがっていた歯ぐきが破れて、膿が出たので、ラクになったのである。歯は炎症によって押し上げられ、ややグラグラの感じが普通。激痛はないが、相変わらず硬いものは噛めない。こんな風になった歯でも、最近は、すぐに抜かずに、治療する。

ふつう、数日間、空気を出入りさせて様子を見たあと、根管拡大で清掃する。条件にもよるが 、歯根膜の炎症も鎮まるのが普通。比較的まれだが、場合によっては歯ぐきを切り、骨をひらいて、根の先を切る手術(歯根端切除)で、感染部分を取り除く。ちょっと前までは、こんな病状は積極的に抜根といわれた。「まだ 、抜く歯科医もありそう」というから、気をつけたい。 最近は 、「抜くか、抜かずにがんばるかの境目でなんとか抜かずにがんばってみませんか」など と、X線写真を見せながら説得してくれる歯科医が いうことをきくべきだし、説得してくれる歯科医は、肉を破って出る。

抜くなしという歯科医の忠告は、まず良心派だ。 ここ五年ほどで「なるべく抜かない」風潮が、完全に定着した。残根を活用して、 歯を再構築する技術が普及してきたこともある。抜いてブリッジにしたほうが儲かるという事情への、 良医たちの自戒もあるようだ。奥歯を抜いたあとに、親知らずを移植するという歯科医がいる。智歯が若くて根尖が閉じていないこと、水平に寝て生えていないことなど、条件はかなり厳しいようだが、智歯の虫歯を無思慮に抜いたころと比べれば、格段の進歩だろう。 さて 、抜くしかない歯は? 第一は、根が割れている歯。修復の道が 抜くしかない条件は? ない。処置していて割れたというのも、まあ寿命。 処置半ばで「これは、根まで虫歯にやられていて、保ちません、抜きましょうと言われたときも、同様だ。 また、X線写真で見た時、歯恨が歯槽同{円から抜けかけていれば、これも抜歯するしかない。

乳歯はいずれ抜ける。だから、乳歯の虫歯はほうっておいてよいと考えている親は、まだ多い。 しかし乳歯が歯根まで溶けると、永久歯に悪影響が出る。溶けたすき間に別の乳歯が動いてきて、乱ぐい歯になる。また、永久歯は、自然に抜けていく乳歯に誘導されて、頭を出す。乳歯を 失うのが早すぎると、永久歯の着実な成長には大きなマイナスだ。気をつけたい。 なお、抜けた歯をそのままにしておくと、歯ぐきがやせできたり、上下で暁み合う相棒が伸び出て悪影響が出る。数カ月以内に義歯などで後始末を。